第1話 ガキ大将と土手で会う

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 秋の夕方、土手道を久しぶりに自転車乗りです。八キロ先の実家に向かって。そこには一人暮らしの父が住んでいます。土日は夕食を一緒に食べる習慣です。その土手道で幼い頃のガキ大将と遭遇!会ったとたんに、幼い頃の思い出というか空気が一瞬にしてよみがえります。


 「や〜そうちゃん」「や〜のぼちゃん」と、お互い笑みがこぼれます。「あれ、地震以来はじめてだっけ?」「えーと、たしか一年前じゃなかったっけ?ここであったよね?」どういうわけか年に一回くらい同じシチュエーションで会うんです。そして立ち話がいつも延々と一時間以上・・・これがパターンなんですが、今日はそうちゃんのワンコがせかすので三十分くらいの川端会議です。私の父は十二月で米寿、そうちゃんの父母はそれより上、お互いに親の近況話です。


 「いや〜、今年の夏は暑さきびしくてまいったよな。うちの親父、初めて救急車で運ばれ入院したよ。そしたらおふくろがもう帰ってこないと思って、さっそくオヤジの部屋の片付け始めたのさ。ところが一時帰宅させたら元気になってさ。おふくろも無駄骨おっちゃたよな。」「先生にむりやり許してもらって好物の酒も飲ませてやってるんだ。俺もごはんの時はオヤジが喋るまでいつまでも話しかけてお相手してんのさ。そうしたら頭もしっかりしてきてさ。オヤジに火葬場どこにするかなんて毎晩相談してるよ」


 そうちゃんはペンキ屋さん。鳶職のあんちゃん達がはく、裾の広がったはかまのようなズボンをはいています。いつ会っても昔通りの元気さと口の悪さです。小さい頃からあだ名付けや替え歌の名人でした。私の替え歌は村田英雄の「王将」の節で「ふ〜け〜ばとぶようなノブオのケツを〜 ぽ〜んとけ〜れえば地球を一周〜 生まれながらの・・・」まったく・・・今でも吹きだしてしまいます。


 さて、私が一緒に遊んでもらったガキ大将は三人います。(世代交代があるんです)今話している「そうちゃん」は私より二歳年上で、ガキ大将といってもあまり徒党を組まないタイプでした。もう一人三歳年上の「ひろちゃん」というガキ大将もいて、こちらとも、やはり土手で年に一回くらい会うんですが、会えば必ず延々と思い出話、立ち話です。


 「ひろちゃん」は刑務官をしてるんですが、小さい頃に知ってた奴と拘置所で出会ったことがあるなんて話しもしてましたね。こんなふうに、幼なじみどうし会えば、思い出が濃くて、話しても話してもネタがありすぎて止まりません。


 もう一人、四歳年上のガキ大将がいます。こちらは遊び方がものすごくて、超スリリングなことをずいぶんやらされたものです。そのスリルといったら、今でもあんな危険な遊びをしたことが信じられないくらいです。ガキ大将たるもの、やはり個性的というか自分を曲げない人たちなので彼は三回も結婚しました。彼には、ガキ大将とはいえ「そうちゃん」も「ひろちゃん」もときどきいじめられたものでした。


 三人のガキ大将に共通するのは、私のほうが思い出話をよっぽど記憶していること。つまり彼らは主役で私は語り部みたいなものなんですね。思いきり飛躍しますが、孔子も釈迦もソクラテスもキリストも、その言説を伝えたり書いたりしたのはみんな弟子たちでした。私も弟子というか子分だったのでその役割を果たしてるわけですね。それにしても不思議なのは「今、どんな社会になったらいいかな?」と考えるときに必ず思い出すのが、彼らガキ大将と遊んだ時代のこと、ということなんです。