第14話 スネーク・ハンター

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(→同級生佐々木保君より提供 「化女沼風景」門脇耕作)

スネーク・ハンター


 わが高校の生物部は実に思い出深いクラブであった。昨日、山火事の話を書いたが、実は翌年もその場所でちょっとした事件があった。しかも、どういうわけか、またもアベックが出てくるのである。


 文化祭の準備はとても入念だ。なにせ女子高からわんさかやってくる!日頃あこがれのお嬢様(?)やらマドンナ(?)やらを「ワオ!」と言わせたい。その執念でみんな毎晩夜遅くまで、あれこれ準備をしたものだった。


 私とタモツ、ノッパン(あだな)は、部室の真ん中に「へび」だらけのショールームをつくって驚かそうと考えた。あ〜、女子高生のビックリする顔が頭に浮かんでくる。ついニッコリしてしまう・・・三人は文化祭前の休日、前年山火事となった例の沼へ、ヘビ捕りに行くことを決定した。「何とかのためなら、たとえ火の中、水の中!」


 そこは、お姫様がヘビの化身である若侍に魅入られ入水したという伝説の沼である。ヘビが多いのでも有名であった。長靴に軍手、それにヘビを入れるナップザック。そんないでたちで、自転車で一時間くらいかけて沼に向かった。


 普段、ヘビはとっても嫌いだが、いざとなればそこは「男の子」であった。小さい頃は、年上の連中からシマヘビの皮むきなどもさせられた。「ガキ大将サークル」会員としての通過儀礼として、そんな遊びもあったのだ。


 まず最初に発見したのはノッパンくん。しかし凶暴なヘビだった。彼の人差し指が噛まれた!「ヤマカガシ」と呼ばれるヘビで、気の荒いのでも有名なヘビだった。そのころは「無毒」と言われていたが、後年「弱毒」に変わった。ノッパンの指は何ともなかった。良かった・・・この日は大漁だった。ヤマカガシに加えてシマヘビも五・六匹捕らえ、ナップザックにまとめて入れた。マムシに出会わなかったのは実に幸いだった。


 さて、ヘビ猟も終わり、丘陵の頂にある「あずまや」で休憩することにした。「あずまや」の少し下にある「案配のいい場所」に、車が止めてあった。中にはアベックが乗っていた。「帰ったふりしてのぞき見しようか」と誘ったのは多分私だったろう。(恥ずかしい・・・)木陰からしばし見張っていたが、気配を察したのか動きがない。「もう帰ろうや」となって、皆で自転車に乗って帰路についた。


 しばらく走ってから、タモツが急に止まった。「あっ!ヘビ入れたナップザック、あずまやに忘れてきた!」なんということだ!三人あわててペダルをこいで戻った。もどったところ、何とナップザックがなくなっていた!「もしかして、ヘビが自分たちで動いていったんでないかや?」などと、あれこれ想像しながら付近を探したがどこにもない。あきらめて帰ることにした・・・


 アベックの車はもうなかった。意気消沈しながらしばらく走っていたら、なんと!道ばたにナップザックが捨てられていた・・・そしてナップザックの口から、ヘビどもがニョロニョロと這い出していた。


 私たちは笑い出した。起こったであろう情景をみんなが同じように想像したのだ。あの、あずまや付近にいたアベックが、私たちが帰った後、あのナップザックを見つけて持ち帰ろうとした。何かいいモノが入っているに違いないと、二人で期待しながら。そして、たぶん助手席の女性が車の中で開けたに違いない。「★☆★ギャー!!!」そして、あわてて窓の外へ放り出したに違いない。よほど強く投げたのだろう。気持ちは分かる・・・ヘビはたたきつけられたように、みな元気を失っていたのだった。


 文化祭では、ヘビのショールームは無事完成し、そこそこの人気も博した。(と思う)しかし「絶叫」までいかなかったのは、やはりヘビの元気が不足していたからに違いない。


 私たち三人は、少しだけ残念だった。その年の文化祭では、ヘビの他に、私とノッパンくんの主要研究であるミツバチも、他の連中の研究テーマである、数匹のイモリ、十数匹のガマ、きれいなところではチョウチョとかその他諸々も一緒に展示された。研究成果?とともに。あ、そうそう、「ヒル」もいたな。これは研究者が自らの血を吸わせて飼っていた。


 廊下には学校付近の雑草もいっぱい運び、ジャングルのような雰囲気にしたものだ。(いちおう庭園のつもり)この年の文化祭、たいへん努力したつもりだが、女子高生がどんな思いをしたかについては今に至るまで不明である。