第15話 落ちた!秘密基地

落ちた!秘密基地


 「サンダーバード」はまだ始まっていなかったな~、たしか。でも、あの頃の男の子たちは物心付いたころからもう秘密基地の隊員にあこがれていた。家が狭かったせいもあるかもしれない。わが家も四人家族だったが、下が四畳半と六畳、二階が六畳の三部屋しかなかった。それなのに、近くの農林高校の生徒を二人も下宿させていたのだ。どこもみんな似たようなものだった。


 狭い家の中で秘密基地建設はどこから始まるか?まず最初はダンボール箱、つぎに押し入れ、つぎに縁の下だ。縁の下は犬のマイホームにもなっていたから、最初から隊員付きだ。やがて、ガキ大将サークルに入ると、おおがかりな基地建設の労働者にさせられる。


 そのころ江合川に土手が新しく造られたが、古い土手もそのまま残っていた。この古土手こそ洞窟式秘密基地であった。日夜スコップで穴掘り土木工事をみんなでしたものだ。つぎにはツリーハウスだ。これは、カリスマガキ大将の「ノブオちゃん」の技術的センスがなければ誰も造れなかったろう。


 ノブオちゃんは私と同名だが漢字が違う。字が少し違うだけでえらい差だった。かたや大将、かたや二等兵。しかし、秘密基地防衛のため地面に自転車のスポークをさしていたのは、大将のやり過ぎだった。(ノブオちゃんの家は自転車屋だった)上から飛び降りた肉屋の息子の足にささってしまった!しばらくこの子は一軍登録抹消となった。


 おなじみのガキ大将「ひろちゃん」も土木技術センスは高かった。思い出すのは小学校三年か四年頃のこと。同級生の「せんぼちゃん」の家は「曳家(ひきや)」といって、家をそのまま移動する仕事を生業とする土木屋だった。大きな開放された倉庫があって、そこには仕事で使う線路の「枕木」が格子状に三〜四メートルくらいの高さに積まれていた。


 「ひろちゃん」はわれわれ少年戦車隊を集め、この材木の上に秘密基地をつくることを命令した。もちろん「ひろちゃん」も自分が先頭に立って作業をした。造ることこそが楽しいので。


 その途中での出来事だった。「ひろちゃん」が上に持ち上げていた枕木を、あやまって落としてしまったのだ!そしてその真下には「せんぼちゃん」の頭があった!命中した・・・頭に・・・「せんぼちゃん」が倒れた。みんな、一瞬凍りついた。いや凍り付いたまま溶けなかった。「せんぼちゃん」が気絶してしまったのだ!このとき、みんなどうしていいかわからなかった。


 そのようにして三分くらい過ぎた頃だろうか。「せんぼちゃん」の目が覚めた。いっせいにみんな「せんぼちゃん」の近くに寄って、具合を確かめた。「せんぼちゃん」は我慢強いので一目置かれた子だった。泣くこともしないで「だいじょうぶだ・・・」とつぶやいた。


 しばらくして、騒ぎを感じた親だったか、使われている土方の方だったか忘れたが、大人がやってきた。「せんぼちゃん」は家に連れて行かれた。たしかその場で大人から「カミナリ」を落とされたが、叱られたのは短い時間だったような気がする。おかげさまで、「せんぼちゃん」の頭は大事にいたらなかった。それ以来、枕木秘密基地の建設はストップした。かわりに、穴掘りやらが増えただけだったが。


 「せんぼちゃん」は今、構造計算専門の設計事務所を同じ場所で開業している。私は実家に行くとき、ときどき、その近くを通るが、あの「枕木倉庫」と「枕木」はいまだにあのままあるのだ。それを見るたびに、あの日の凍り付いたみんなの顔を思い出してしまう。大事にいたらなくて本当によかった。神様ありがとうございました。