第21話 恥ずかしい「きもだめし」

恥ずかしい「きもだめし」


 子供時代の通過儀礼は数々あった。夏休み「お盆」の頃の「きもだめし」もそのひとつ。


 小学校時代の夏休み、「夏休み帳」はじめ「自由研究」など、宿題はけっこうあった。地区ごとに縦割りの子供会が組織され、毎日午前中は各家庭を回り番で、一年生から六年生まで集まって勉強?したものだ。


 各家庭で出される、スイカやトウモロコシ、瓜、茄子漬け、枝豆なんかが、それぞれ味が違って楽しみだった。高学年の子は低学年の子の面倒も(多少)見てあげる。さて、そんな子供会の一大イベントが墓場で催す「きもだめし」だ!


 私が小学校六年生のときだった。私の地域の子供会では、その年私がリーダーだった。それで「きもだめし」の企画責任者は私であった。「きもだめし」と聞いて、今ならほほえましいことに思えるかもしれないが、あのころはホントに「きもを冷やす」怖い体験だった。


 いよいよお盆になり、その日が来た。まずはじめに、暗いところに集まり上級生が怪談を話して聴かせる。十分「きも」が冷えたところで、暗い墓場へろうそくを持って行くのだ。そこには上級生たちが最初に行って墓石や木の陰に隠れ、下級生を驚かすというストーリーが組まれていた。そして午後七時半、「きもだめし」が始まった。


 どんなスナップ写真が写っていたかって?それは私にとって、今でも恥ずかしい一枚だ。私はそのころ近所の誰よりも本を読んでいて、たぶんその晩集まった誰よりも想像力が豊かだった。それが「あだ」となってしまった。自分の話す怪談で自分が誰よりも怖くなってしまったのだ!


 私が話した怪談は、たしか「青田平助」の話だった。 体が弱くいつも青い顔をしていた平助は、なんとか強くなりたいと願っていた。そんな彼はあるおぞましい方法を偶然知ることになった。夜な夜な墓場に出かける青田平助の後を追った同級生の少年たちが見たものは・・・青田平助はゆっくりと振り向きつぶやいた。「見たな〜〜」と・・・明くる日、少年たちは木にぶらさがった彼の姿を発見した。


 そして・・・なんと、スナップ写真には墓場とは別な所に行った自分が写っている!三十分くらい経ってから、私は「そろそろやめよう!」と皆に話した。みんなも怖かったので、「渡りに船」だった。私は、あたかも墓場へ行って隠れていたようなふりをして皆に話した。なんという創作力だろうか、何という嘘つきだろうか・・・ 疑いを持つ視線が少しだけ感じられたが、それどころではなかった。


 今ではその墓場にたくさんあった木も切られ、近くを流れていた堀も綺麗に整備され、あの頃の怖さはもう感じられなくなっている。それとともに、魑魅魍魎(ちみもうりょう)、ひとだま、妖怪などへの想像力も失われてしまったな〜と感じている。少しさびしいな〜。