第24話 青鬼のお面

青鬼のお面


 小学校一年生の学芸会は私が主役だった。『猫と鈴』の猫役で、私は子供ながら大いにプライドを満足させたものだ。ところが翌年、小学校二年生の学芸会では「真っ逆さま」になってしまった。学年の劇担当で担任の久美子先生は、私に主役とは正反対の役を与えたのだ。


 それはたくさんいる「青鬼」のひとり・・・あまりに落胆して、何という話でどういうストーリーであったか、今に至るも思い出せない。 覚えている数少ない場面は、主人公のまわりを青鬼、赤鬼が雄叫びを上げて、まるで野蛮人のようにグルグルまわったことだけ。セリフなどひとつもなかったのだ!


 この頃の学芸会では、衣装や小道具は出演者(その家族)が自前で用意するのが当たり前だった。私は「青鬼のお面」が必要だった。親に話したら、おじいさんの親友が絵の名人だと聞いた。それをおばあさんに話したら、さっそくお面作りを名人に依頼してくれた。


 その頃私のおじいさんは脳軟化症という病で、会話も日常生活もとても不自由だったが、とてもインテリだったらしい。その親友もやはりレベルが高かった。できあがった「青鬼のお面」を見て、幼い私ではあったが絶句した!何と立派な、何と威厳があって、なんて芸術的なお面だろう!!セリフひとつなく、雄叫びをあげて主役のまわりを踊り廻るだけなのに・・・


 私はこの「青鬼のお面」がとても恥ずかしかった。それで練習の時には、「まだ作っていない」とか「忘れてきた」とか嘘を言って、誰にも絶対にこのお面を見せなかった。母親に泣いて別なお面を作ってもらうように頼んだ。


 しかし母は「せっかく作ってくれたんだから。。」と取り合わない。さらにまずいことに、その製作者のお爺さんも学芸会に来るらしい。お爺さんはきっと主役のお面だと思っているに違いない・・・この後の記憶はない。たぶん、そのお面をつけて出演したはずだ。そっとできるだけ目立たないようにしながら・・・


 この歳になったからこそ想像できることがある。あの日、「青鬼のお面」を作ってくれたお爺さんは、心の中でこうつぶやいたことだろう。「恥ずかしい思いをさせてしまったかもしれないね。でも主役も端役もみんな舞台で輝いていたよ。つけてくれてありがとう」と。